はじめに
「1歳向け」と書かれた絵本を買ったのに、ほとんど見てくれなかった。
そんな経験はないでしょうか。
じつは「1歳向け」という括りは、かなり大雑把です。
1歳は、生後12か月から24か月までの1年間。この1年のあいだに、子どもはよちよち歩きから、走って、しゃべり始めるところまで進みます。4月生まれと翌年3月生まれが同じ本を楽しめないのは、当然といえば当然です。
この記事では、1歳を前半(1歳0〜5か月)と後半(1歳6〜11か月)に分けて、それぞれに向く絵本の条件と、具体的な8冊を紹介します。
自分は児童発達支援・放課後等デイサービスの現場で、子どもたちと絵本の時間を過ごしてきました。「最後まで読めたか」ではなく「どこで反応したか」を見てきた立場から、選ぶ理由も書いています。

1歳前半と後半で、何が変わるのか
まず、この1年で何が変わるのかを整理します。
| 1歳前半(0〜5か月) | 1歳後半(6〜11か月) | |
|---|---|---|
| 言葉 | 意味のある単語が出始める | 単語が増えていく時期 |
| 指さし | 「あっ」と指して大人と共有する | 「これなに?」と問いかける指さし |
| 手の動き | ページをつかむ・何枚もまとめてめくる | 1枚ずつめくれるようになる |
| 絵本の見方 | 1場面ごとに反応する | 前のページとのつながりを追える |
| 集中できる時間 | ごく短い(1〜2分程度) | 少しずつ伸びていく |
ひとことで言うと、前半は「音」と「動き」、後半は「意味」です。
現場で見てきたこと:前半の子は、読んでいる途中で本を閉じたり、好きなページだけ何度も戻したりします。これは聞いていないのではなく、その子にとって「おもしろいのはそこ」というサインです。
後半になると、めくった先に何があるかを覚えていて、こちらが読む前に指さすようになります。この変化が見えたら、本の選び方を変えるタイミングです。
※発達の速さには個人差が大きく、月齢はあくまで目安です。この記事の区切りも、絶対的な基準ではありません。
1歳前半に向く絵本の3つの条件
1.音とリズムが主役になっている
この時期の子どもは、言葉の意味より音の響きそのものに反応します。「もこ」「じゃあじゃあ」のような擬音が多い本は、意味がわからなくても楽しめます。
2.1場面で完結している
ストーリーを追う力はまだ育っていません。1ページ、1場面ごとに「見て、反応して、終わり」が成立する本のほうが、途中で飽きにくくなります。
3.めくる動作そのものが楽しい
前半の子にとって、めくることは遊びです。めくるたびに絵が変わる、次が気になる作りだと、めくる楽しさと絵本がつながります。
あわせて、厚紙のボードブックだと破れにくく、親の気持ちも楽になります。
1歳前半におすすめの絵本4冊

1.いないいないばあ
| 作・絵 | 松谷みよ子 ぶん/瀬川康男 え |
|---|---|
| 出版社 | 童心社 |
| 刊行 | 1967年 |
日本の絵本として初めて700万部を超えた、赤ちゃん絵本の定番です。ねこ、くま、ねずみが「いない いない……ばあ」と顔を出す、ただそれだけの本です。
選ぶ理由:「隠れたものが出てくる」という展開は、1歳前半の子がいちばん確実に笑うしかけです。読み手が間を取れば取るほど反応がよくなるので、大人の読み方で面白さが変わるのも、この本のいいところです。
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2.じゃあじゃあびりびり
| 作・絵 | まついのりこ 作・絵 |
|---|---|
| 出版社 | 偕成社 |
| 刊行 | — |
「みず じゃあじゃあじゃあ」「かみ びりびりびり」と、身近なものとその音だけが並ぶ本です。厚紙の小さな判型で、子どもが自分で持てます。
選ぶ理由:物語がまったくないので、どのページから開いても成立します。前半の子が好きなページだけ何度も開いても、まったく問題がない作りです。丈夫なので、持ち歩き用にも向いています。
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3.もこ もこもこ
| 作・絵 | 谷川俊太郎 作/元永定正 絵 |
|---|---|
| 出版社 | 文研出版 |
| 刊行 | 1977年 |
「しーん」から始まり、「もこ」「にょき」「ぽろり」と、形が膨らんだり弾けたりしていきます。登場人物も物語もありません。
選ぶ理由:意味がない本だからこそ、意味がわからない時期に強いです。大人が読むと戸惑いますが、子どもは音と色の変化だけで引き込まれます。
反応が薄いときは、読む速さを変えてみてください。同じ本とは思えないほど反応が変わることがあります。
4.だるまさんが
| 作・絵 | かがくいひろし 作 |
|---|---|
| 出版社 | ブロンズ新社 |
| 刊行 | 2008年 |
「だ・る・ま・さ・ん・が……」のあとに、だるまさんが転んだり、潰れたり、伸びたりします。シリーズ3冊で累計550万部を超えるベストセラーです。
選ぶ理由:読みながら体を一緒に揺らせる本です。前半の子は、絵を見るだけでなく体で参加できる本によく反応します。
現場でも、じっと座るのが難しい子がこの本では笑って参加することがあります。絵本を「座って聞くもの」にしないという意味でも、最初の一冊に向いています。
1歳後半に向く絵本の3つの条件
1.物の名前が出てくる
後半は、物に名前があることがわかってくる時期です。りんご、くつ、わんわん。知っている物が出てくると、子どもは指をさして教えたくなります。
2.探す・見つける要素がある
「どこ?」と聞かれて指さす力が育ってきます。絵の中から何かを見つける本は、この力とそのまま噛み合います。
3.生活とつながっている
食べる、履く、寝る。毎日やっていることが絵本に出てくると、本の中と自分の生活が結びつきます。この結びつきが、言葉が増えるときの土台になります。
1歳後半におすすめの絵本4冊

5.どんどこ ももんちゃん
| 作・絵 | とよたかずひこ 作・絵 |
|---|---|
| 出版社 | 童心社 |
| 刊行 | 2001年 |
ももんちゃんが「どんどこ どんどこ」と、ひたすらどこかへ向かって進んでいきます。坂をのぼり、川を渡り、くまを乗り越えて——最後にたどり着く先が、この本のすべてです。
選ぶ理由:「どんどこ」の繰り返しは0歳から楽しめますが、最後にたどり着く場所の意味がわかるのは後半からです。向かっている先があると理解できたとき、この本は別の本になります。
※出版社の対象年齢表記は「0・1歳〜」です。後半に入れたのは、繰り返しのリズムではなく物語の流れのほうを評価した、自分の判断によるものです。
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6.きんぎょが にげた
| 作・絵 | 五味太郎 作 |
|---|---|
| 出版社 | 福音館書店 |
| 刊行 | 1977年初版 |
金魚鉢から逃げた金魚が、カーテンの水玉模様やキャンディの中に隠れています。読み手は毎ページ「きんぎょが にげた」「どこににげた」と問いかけるだけです。
選ぶ理由:探して指さす、という動作が本の主役になっています。見つけたときに大人が「あった!」と一緒に喜ぶところまでが、この本の体験です。
指さしの力が育つ時期にちょうど噛み合います。出版社の通販では「およそ1才〜」、他の紹介では2歳〜とされることが多く、後半から長く使えます。
7.くだもの
| 作・絵 | 平山和子 作 |
|---|---|
| 出版社 | 福音館書店 |
| 刊行 | 1981年 |
すいか、もも、ぶどう。果物が写実的に描かれ、次のページで食べられる状態になって「さあ どうぞ」と差し出されます。
選ぶ理由:絵が本物に近いので、本の中の果物と、食卓に出てくる果物がつながります。食べるまねをする子が多く、絵本と生活を行き来する経験になります。
福音館書店の目安は「読んであげるなら2才から」ですが、知っている果物が出てくれば後半から十分に楽しめます。
8.しろくまちゃんのほっとけーき
| 作・絵 | わかやまけん 作 |
|---|---|
| 出版社 | こぐま社 |
| 刊行 | 1972年 |
しろくまちゃんがホットケーキを作ります。材料を混ぜて、焼いて、食べる。焼けていく様子が見開きいっぱいに並ぶページが有名です。
選ぶ理由:この記事で紹介するなかで、もっとも順序のある物語です。作る→焼ける→食べる、という流れを追えるようになったら、後半向けの力がついてきた証拠といえます。
焼けるページで「ぺたん」「ぷつぷつ」と音が続くので、物語が難しければそこだけ楽しんでも構いません。
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前半向けから後半向けに切り替えるサイン
月齢ではなく、子どもの様子で判断するほうが確実です。次のような場面が増えてきたら、後半向けの本を混ぜてみてください。
- 絵を指さして、大人の顔を見る(「見て」と伝えている)
- 同じ本の同じページを、自分で探して開く
- 「わんわん どれ?」と聞くと、正しく指さす
- 最後のページまでめくるようになる
- 読み終わると、もう一度持ってくる
このうち2つ以上が見られたら、後半向けを1冊足してみるタイミングです。いきなり全部入れ替える必要はありません。前半向けの本は、後半になっても楽しめます。
選ぶときの3つの注意点
1.月齢はあくまで目安
この記事の区切りも含め、対象年齢の表記は出版社や紹介サイトによってばらつきます。実際、同じ本が「0歳から」とも「3歳から」とも紹介されています。
迷ったら、月齢ではなく、その子が今どこで反応するかを基準にしてください。
2.破るのは発達の過程
1歳は、手先の動きが育っていく時期です。紙を破る感触も、めくる動作も、子どもにとっては立派な遊びになります。
しつけの問題として捉えるより、破られたくない本は手の届かない場所に置くほうが現実的です。手に取れる場所には厚紙の本を並べておく、という分け方をおすすめします。
3.同じ本ばかり読みたがるのは良いこと
「他の本も読んでほしいのに」と思うかもしれません。でも、次に何が起きるか知っている安心感こそが、この時期の子どもが絵本を好きになる入口です。
同じ本を何度も求めるのは、その本が機能している証拠です。新しい本は、好きな本の隣にそっと置いておけば十分です。
まとめ
- 1歳は1年で大きく変わるので、前半と後半で分けて考える。前半は「音」と「動き」、後半は「意味」
- 前半向けの条件は、音とリズム・1場面で完結・めくる動作が楽しいこと。いないいないばあ/じゃあじゃあびりびり/もこ もこもこ/だるまさんが
- 後半向けの条件は、物の名前・探す要素・生活とのつながり。どんどこ ももんちゃん/きんぎょが にげた/くだもの/しろくまちゃんのほっとけーき
- 切り替えは月齢ではなく様子で判断する。指さして大人の顔を見る、同じページを自分で開く、などが2つ以上見られたら
- 破るのも、同じ本を繰り返すのも、この時期は正常。叱る場面ではありません
絵本は、最後まで読めなくてもかまいません。
1ページだけ開いて、指をさして、顔を見合わせる。その数十秒が積み重なっていくほうが、冊数よりもずっと大きいと感じています。
なお、1歳半を過ぎても指さしが出ない、呼びかけへの反応が気になるといった場合は、絵本の工夫とは別に、自治体の健診や保健師、かかりつけの小児科に相談してみてください。早く相談して何もなければ、それがいちばんいい結果です。
