はじめに
「運動会の練習が始まってから、朝になると行きたくないと言う」
「本番の日が近づくにつれて、夜なかなか眠れなくなった」
9月から10月にかけて、こうした相談が一気に増えます。
運動会は多くの子どもにとって楽しみな行事ですが、一方で、この時期がいちばんつらいという子どもも少なくありません。
自分は児童発達支援や放課後等デイサービスの現場で、運動会シーズンに調子を崩す子どもたちと関わってきました。
その経験から感じているのは、運動会が苦手な理由は「運動が苦手だから」だけではない、ということです。
この記事では、子どもが運動会を嫌がる背景と、本番までに家庭でできる準備、園や学校への相談のしかたについて、現場での経験をもとにお伝えします。
この記事でわかること
- 運動会が苦手になる5つの背景
- 本番までに家庭でできる準備
- 園・学校に配慮を相談するときのポイント
- 当日と終わったあとの声のかけ方
- やりがちなNG対応
運動会が苦手な理由は「運動」だけではない
「足が遅いから嫌なのだろう」と考えがちですが、現場で子どもたちの話を聞いていると、理由はもっと多様です。
ここでは、よく見られる5つの背景を紹介します。
1.大きな音がつらい
スタートのピストル、スピーカーから流れる音楽、マイクの声、応援の歓声。
運動会は、日常ではまず出会わないほど大きな音にさらされる場です。
聴覚が敏感な子どもにとって、ピストルの音は「びっくりする」程度ではなく、痛みや恐怖に近い感覚として受け取られていることがあります。
「ピストルが鳴るから走りたくない」という訴えは、決してわがままではありません。
2.人の多さと、いつもと違う環境
普段は静かな校庭や園庭に、保護者や地域の人がたくさん集まります。
テントや観覧席が並び、見慣れた場所がまったく別の空間に変わります。
いつもと同じであることで安心できる子どもにとっては、この変化そのものが大きな負担になります。
3.練習期間の生活リズムの変化
本番以上に負担が大きいのが、実は練習期間です。
時間割が変わる、急に全体練習が入る、雨で予定が延期になる。こうした見通しの立たなさが数週間続きます。
練習による身体の疲れに、予定変更のストレスが重なり、家に帰ってから癇癪が増えるというケースもよく見られます。
4.人に見られる緊張と、勝ち負け
大勢の前で走る、踊る、順位がつく。
失敗したらどうしよう、負けたらどうしよう、という不安が強い子どもにとって、運動会は緊張の連続です。
園や学校では話せない、声が出なくなるといった場面緘黙の傾向がある子どもは、特にこの負担が大きくなります。場面緘黙とは?園や学校で話せない子どもへの理解と対応もあわせてご覧ください。
5.身体の動かし方の苦手さ
ダンスの振り付けを覚えられない、隊形移動で自分の位置が分からなくなる、みんなと動きを合わせられない。
こうした苦手さは、努力不足ではなく、身体の使い方や空間の把握の特性によるものであることも多いです。
周りと同じようにできないことを繰り返し指摘されると、運動会そのものが「できない自分を見せる場」になってしまいます。
本番までに家庭でできる準備
当日の流れを「見える形」で伝える
不安の多くは「何が起きるか分からない」ことから生まれます。
プログラムを一緒に見ながら、自分の出番はいつか、出番がないときはどこで待つのか、お昼はどうするのかを確認しておくと、見通しが立ちやすくなります。
文字だけでなく、簡単な絵や時計の図を添えると、小さな子どもにも伝わりやすくなります。
音への備えを相談しておく
音がつらい子どもには、イヤーマフや耳栓の使用を事前に園や学校へ相談しておくと安心です。
家で一度つけて慣れておくと、当日も抵抗なく使いやすくなります。
練習期間は「家で休む」を優先する
練習期間中は、習いごとや予定を少し減らし、家でゆっくり過ごす時間を意識的に確保します。
「練習でがんばっている分、家では充電する」という考え方です。
「頑張って」より「どこなら大丈夫そう?」
不安を訴える子どもに「大丈夫、頑張れば楽しいよ」と励ますと、かえって気持ちを受け止めてもらえなかったと感じてしまうことがあります。
それよりも、「どの種目が一番いや?」「ここまでなら出られそう?」と、一緒に線引きを考える声かけのほうが、子どもは話しやすくなります。
園・学校に配慮を相談するときのポイント
家庭での準備だけでは難しい場合は、早めに担任の先生に相談しましょう。
練習が本格化する前に伝えられると、園や学校側も調整しやすくなります。
相談の際は、「嫌がっている」とだけ伝えるのではなく、何がつらいのかとどうすれば参加しやすいかをセットで伝えるのがポイントです。
実際に現場で見てきた配慮の例には、次のようなものがあります。
- ピストルの代わりに笛や旗でスタートの合図を出す
- イヤーマフの着用を認める
- 出番以外の時間は、テントの端や静かな場所で待機できるようにする
- 一部の種目だけ参加する、途中で休憩をはさむ
- ダンスの隊形で、目印になる友達や先生の近くに配置する
- 練習の予定変更を、前日までに本人へ伝えてもらう
こうした調整は、特別扱いではなく、その子が参加するための工夫です。
2024年4月からは、私立も含めたすべての事業者に合理的配慮の提供が義務化されています。制度の考え方と伝え方は【ADHDは「わがまま」ではない】2024年法改正と合理的配慮の義務化で解説しています。
音や環境の変化への敏感さが強い場合は、小学生のASD(自閉スペクトラム症)とは?で紹介している感覚の特性についての内容も参考になります。
当日の関わり方
当日の朝は、いつもどおりの時間に起きて、いつもどおりの朝ごはんを食べる。
特別な日だからこそ、できるだけ普段と同じ流れを保つことが安心につながります。
観覧席から大きな声で名前を呼ぶと、注目されることで余計に緊張してしまう子どももいます。
事前に「応援はどうしてほしい?」と本人に聞いておくのもひとつの方法です。
終わったあとは「結果」より「過程」を
運動会が終わったら、順位やできばえではなく、そこに向かった過程に目を向けて声をかけます。
- 「練習期間、毎日よく学校に行っていたね」
- 「ピストルの音が苦手なのに、スタートラインに立てたね」
- 「途中で休憩できたのは、自分で考えられたからだね」
苦手なことに向き合った経験を認めてもらうことは、子どもの自己肯定感を支える土台になります。子どもの自己肯定感の育て方とは?もあわせてご覧ください。
また、行事が終わって緊張がほどけた数日間は、疲れがどっと出て、ぐずりや癇癪が増えることがあります。
その場合の対応は子どもの癇癪がひどい時の対応法と家庭での対処ステップにまとめています。
やりがちなNG対応
- 「みんなできているのに」と比べる……苦手さの理由が違うのに、同じ基準で比べられることになります
- 家でも練習をさせすぎる……家まで練習の場になると、休める場所がなくなってしまいます
- 「当日になれば大丈夫」と流す……不安を言葉にできた機会を逃してしまいます
- 参加できなかったことを責める……次の行事への不安をさらに強めてしまいます
まとめ
運動会が苦手な理由は、運動の得意・不得意だけではありません。
大きな音、環境の変化、練習期間の見通しの立たなさ、人に見られる緊張など、子どもによって背景はさまざまです。
大切なのは、「全部に参加すること」をゴールにしないこと。
その子にとって無理のない参加のしかたを、家庭と園・学校で一緒に探していく。その経験自体が、苦手なことへの向き合い方を学ぶ機会になると感じています。
身体を動かすことや、ものを組み立てることが好きなお子さんには、遊びながら思考力や創造力を育てる教材を取り入れてみるのもおすすめです。
